· 

英霊の遺書(6)

書き遺す言の葉

 

  陸軍大尉 堀本武男命

   独立歩兵第622大隊

   昭和二十二年四月二十一日

   広東流花橋にて法務死

   広島県呉出身

   宮崎高等農林学校卒 三十五歳

 

 歌の道は古の大和の心にして拘留所までは内地より持参の「万葉集」「万

葉秀歌」の本だけは身辺より離すことはなかりき。

本を捨てさせられ筆をうばわれたる獄中生活においても、なほ歌の道のみ

は捨てず、同好の士を求めて最后まで持続けたり。

 歌の道は物事を、世の中を正しく見て素直に判断し、従順なる心となる

最もよき道にして、事象を客観的に、ありのままに素直に見た心の叫びこ

そ歌である。

 今更ながら歌の道に入ることのおそかりしを悔みたり。―中略―

遺詠

一、晴れし日は隙間もる陽を戀ほしみて毛布の縁を三度移りぬ

一、戦友は今台湾沖を還るらむと羨しむ兵の言のあはれさ

一、千万の軍かへして異国に無実の罪負ふ戦争犯罪者はや

一、世の更けに夢にめざめて寝返れば足枷重く鎖ふるゝも

一、朝には言葉交せし戦友五人獄舎を出でて夕べかえらず

一、味噌汁の底にうつれる吾が顔をなつかしみつゝそつとのみほす

一、諦観の心静かに時を待ち獄舎の中に歌つくるわれは

辞世

一、悠久の大義に生くる道にして我は逝くなり物思ひもせず