南十字星に祈る --- 一農民兵士より愛児へ ---- 陸軍軍属 松下八寿雄 命 昭和十九年七月一日 ニューギニア、サルミにて戦死 京都府五ヶ荘出身 享年四十五歳 〇長男文男君へ 健康で、明朗で、篤実な青年たれ、生意気な人間になるな。祖父母の言...
沖縄の戦陣より妻へ 陸軍中尉 渡辺健一命 昭和二十年五月二七日 沖縄本島喜屋武にて戦死 栃木県出身 東京大学卒 享年二十九歳 まだお便りする機会は何度かありませう。しかし時期はいよいよ迫りつ つあります。それが何時であるかはもとより予測することは出来ませんが、...
御祭神の歌 すめろぎの国亡ぶるか興るかの戦なるぞ征けや益良夫 海軍少佐 黒木博司命 岐阜県出身 二十二歳 (いわゆる人間魚雷「回天」の発案者、訓練中殉職。) 男子われ防人となる甲斐ぞあれ東半球の果てに死ぬれば 陸軍中将 那須弓雄命...
バタビヤの悲歌 陸軍憲兵少佐 長 幸之助 命 昭和二十二年十二月三十日 ジャワ島バタビヤ「グロドック」にて法務死 福岡県宇美町出身三十一歳 1,玉きはる、命のきはに、月見れば 歌ごゑたかし、花みれば、白露しとゞ 大いなる、光のうちにいつくしき 人の心は、たらちねの、母をしおぼゆ せゞらぎの、清けき里の、ふる里の...
グアム島からの遺書 (厚生省グアム島元日本兵調査派遣団により発見された遺書より) 海軍軍属 石田正夫命 昭和十九年八月八日 グアム島にて戦死 兵庫県加東郡中東条村出身 享年三十七歳 昨夜子供の夢を見て居た。父として匠に何をして来たか。このまま内地 の土をふまぬ日が来ても、何もかも宿命だとあきらめてよいだらうか。お...
戦地より愛児への葉書 陸軍兵長 柴田勝見命 昭和十七年八月八日 中支にて戦死 東京都出身 一橋大学卒 第十回ロスアンゼルスオリンピック大会出場 ホッケー選手 享年三十一歳 ゑみこちゃん、まいにちげんきにがつこうへいつてゐますか、まだおべ んとうはもつていきませんか、がつこうはとてもおもしろいでせう。それ...
最期の手紙 陸軍中尉 岸 文一 命 昭和十九年十月二十四日 比島にて戦死 新潟県刈羽郡田尻村出身 新潟第二師範学校卒 享年二十二歳 秋も深くなり裏庭で鳴く虫の音は今年も変らぬことと思ひます。皆さん と一緒に物語つた夜の数々の追憶で胸一杯になる事があります。きつと御...
妻への最後の手紙 海軍大尉 古河敬生 命 昭和二十年四月二一日 鹿児島県出水沖にて戦死 佐賀県浜崎出身二十五歳 この頃少し心に余裕ができるとお前の事、生れ来る子供の事が気になつ てならない。どうか体にだけはくれぐれも気をつけてくれ。最初九州の某 基地に来た時、予定が急変して全員特攻隊を命ぜられ、今日か明日かと、...
遺言状 海軍少佐 吹野 匡 命 神風特別攻撃隊旭日隊 昭和二十年一月六日 比島方面にて戦死 鳥取県淀江町出身 京都大学卒 二十六歳 母上様 十九年十二月二十一日 匡 私は永い間本当に御厄介ばかりおかけして参りました。色々の不孝の上 に今母上様の面倒を見る事もなしに先立つ不孝をお許し下さい。...