遺言状
海軍少佐 吹野 匡 命
神風特別攻撃隊旭日隊
昭和二十年一月六日
比島方面にて戦死
鳥取県淀江町出身 京都大学卒 二十六歳
母上様
十九年十二月二十一日 匡
私は永い間本当に御厄介ばかりおかけして参りました。色々の不孝
に今母上様の面倒を見る事もなしに先立つ不孝をお許し下さい。
昨秋、私が海軍航空の道を選んだ事は、確かに母上様の胸を痛めた
思ひます。常識的に考へて、危険性の少い道は他に幾等もありまし
国への御奉公の道に於ては、それでも充分果されたかも知れません
し、この日本の国は、数多くの私達の尽きざる悲しみと嘆きを積み
てこそ立派に輝かしい栄えを得て来たし、又今後もこれあればこそ
て行く国なのです。私の母上はこの悲しみに立派に堪えて、日本の
立派に栄えさせてゆく強い母の一人である事を信じたればこそ、私
の憂ひもなしにこの光栄ある道を進みとる事が出来ました。私が、
さかなりとも国に報ゆる所のある益良雄の道を進み得たのも、一に
のお陰であると思ひます。
母上が、私をしてこの光栄ある海軍航空の道に於て、輝かしい死を
そして、いささかの御奉公を尽させて下さったのだと誇りをもつて
事が出きます。
美しい大空の白雲を墓標として、私は満足して、今、大君と愛する
本の山河とのために死んで行きます。